記事内に広告があります。
脳卒中後遺症で動かしにくくなった患側手指を放置しておくとさらに拘縮が進み、より動かしにくくなります。
人間は動かしにくかったり、使いにくかったりすると、ついつい使わずに使いやすいものを使う傾向にあります。
動かしたり、使ったりすると痛みが伴うとなればなおさらです。
ただ、更衣をする、靴を履く、食事をするといった日常生活動作を行う際、どうしても手指を使わないと不便です。
特に冬場に上着のボタンのつけ外しで苦戦される利用者様をよく見かけます。
今回は手指の巧緻性の必要性と簡単な訓練を紹介します。
機能訓練指導員も本が一冊あると心強いです!
患側手指機能改善の意味
なぜ患側手指の機能を向上、回復を目指さないといけないのでしょうか?
現在はたくさん便利な自助具、補助グッズが発案されて患側上肢を使わなくてもある程度日常生活は送ることができるようになりました。
なので健側上肢中心の日常生活動作の訓練に集中するという考えが増加してきました。
ですが、脳卒中後遺症片麻痺の改善という目的で考えると、健側上肢中心の訓練は麻痺の回復を止めてしまう訓練になってしまいます。
大脳というのは左右の半球に分かれていて、互いに抑制的に大脳半球を制御しています。
例えば右片麻痺を例にしてみます。
健側の左上肢ばかり使って生活していると、左上肢の動きを司っている右の大脳半球の活動が活発化します。
そうなると活発化した右大脳半球が左大脳半球の活動を抑制してしまいます。
左大脳半球の活動が不活発になると患側の右上肢の運動機能がさらに弱まってしまいます。
麻痺側の上肢のケアをせずに健側上肢ばかりを動かして使っていると、患側の上肢の機能がさらに抑制されてより動かなくなってしまいます。
そのような状態が続くと初期では手指だけに出現していた痛みやこわばりが徐々に肘や肩周りにまで広がり、患側上肢全体の運動機能にも影響を及ぼします。
自宅で伝い歩きする時に、健側の手だけで手すり等につかまるより、患側の手も添えられたり軽く把持したりができるだけでも安心度、安全度はきっと上がるはずです。
ですので、発症前の完全な動作能力を再獲得できないとしても患側を使う訓練は必要なのです。
手指巧緻性訓練

マッサージ

脳卒中後遺症の手指のこわばりは屈筋群(曲げる筋肉)の過緊張によるものです。
ですので、まずは指を曲げる筋肉に対してマッサージを行っています。
私の場合は頚肩部、肩甲間部から上腕、前腕、手掌、指と上肢全体をマッサージすることが多いです。
肘も拘縮してしまっていたり、肩の動きも制限されてしまっている方も多いからです。
また、指や手首を曲げる筋肉の多くは肘の辺りからついているものがほとんどで、その筋肉の起始部である肘周辺へのアプローチも重要だと考えています。
ストレッチ

腕を挙げる(肩関節の屈曲・外転等)、肘を伸ばす、手首の伸展(手首を手の甲側に曲げる)、指を伸ばす等著しく痛みを訴えられない範囲で行っています。
ただ、これは皆さん嫌がられます。ご本人にしか分からない痛みですもんね。
健常者でも普段体を動かしていなかったり、関節や筋肉が固かったりすると嫌がられます。
整骨院で施術していた時もよく恨まれました(笑)
ですが、意味なくただ痛いことをしているということではありません。
マッサージもストレッチも「筋肉を動かしている」ということです。
筋肉は「使う」「動かす」ことによって血液が必要なエネルギーを運んでくるので、血行が促進されます。血行が良くなれば老廃物等が同じところに溜まることもなく慢性的な痛みやだるさの解消に繋がるのです。
少し話が逸れましたがストレッチは片麻痺利用者様には特に必ず行っています。
拘縮が強い方には弱めのストレッチを時間を少し長めに数回行うようにしています。
大胸筋や小胸筋のストレッチも入れてあげると肩周りの動きが良くなることも多いのでそういった部位の触診も忘れずしていきましょう。
塗り絵・書字

手指を使う練習によく使うのが塗り絵です。
色鉛筆の先でシャープに塗ったり、色鉛筆を寝かせてソフトに塗ったりと指先の細かい動きの反復練習が可能です。
認知機能の低下している方にも何色を使って塗るか等、考えて塗ることによって脳の活性化が期待できます。
クリスマスやハロウィン等季節に応じたものを塗ってもらってます。
高齢者の方は花や風景の塗り絵もお好きな方が多いです。

片麻痺の利用者様で患側手指の拘縮が強く、色鉛筆を持つことも困難な方は健側の手で塗り絵にチャレンジしてもらってます。あまり複雑なものではなく簡単に塗れるものから始めていきます。

バナナやリンゴなど、大きく単色で塗れるものが良いと思います。
「高齢者 塗り絵 ダウンロード 無料」等で検索すると無料でダウンロードや印刷できるものも多いのでお試しください。
字を書く練習もよく行っています。
自分で塗った塗り絵に塗った日の日付と名前を書いてもらったり、なぞり字や写経も挑戦してもらったりしています。
漢字が難しければ、ひらがなやカタカナの書く練習から始めると良いと思います。
字の練習用のプリントも無料ダウンロードできるようなサイトもたくさんありますので、必要に応じて活用させて頂いてます。
花の塗り絵が一番利用者さんに好評です♪
折り紙

私は折り紙を使って何かを折るという作業はあまり訓練には使用していないのですが古くなった新聞の折り込み広告を使って各テーブルに普段おいているゴミ箱を折ってもらっています。
結構このような手作業が得意だったり、好きだったりという利用者様も多いので人気があります。
片麻痺の利用者様の方でも率先して患側の手で押さえながら片手で器用に折られる方もいらっしゃいます。
私はこのようにゴミ箱を折っています。
1.まずは四つ折りにします。


2.家の形のように頭が三角になるよう、折ります。裏面も同様に折ります。



3.左側の一枚を右に折り返してきます。裏返して両面同様に行います。


4.中心線まで両端を折り返してきます。裏面も同様に行います。



5.両面とも下の部分を上に折り返してきます。これが取手の部分になります。



6.これで完成です!


簡単にできますが、2と3の工程は難しいと言われる方が多くできない利用者様もいらっしゃいます。
ですので、2と3の工程は私が行って、それ以外の工程を訓練を兼ねて取り組んでもらってます。
分業制にすると利用者様も責任感が出るのか夢中で取り組んでくれます。
新聞広告なら利用者様のご自宅でもだいたいあるものなので、「訓練で覚えたゴミ箱作りを家でも練習してるよ」と言って下さる方も多いです。
手指の動作・筋力向上訓練
マッサージやストレッチの際に他動運動で手指を動かす練習も行いますが、自分の意思で動かすことも重要です。
グーパーしたり、健側の手を使って摩ったり、指や手首を動かしたりすることも必要です。
ただ「動かすと痛い」「思うように動かせない」等の理由で自主的にそういった訓練はできないものです。
私はそういった利用者様にはデイサービスで空いた時間にハンドグリップ、柔らかいゴムボール、1㎏ほどの鉄アレイやゴムチューブを使ってもらって手を動かしてもらうようにしています。
ほとんど全員と言っていいくらい、自宅で患側の手や指を動かすことはないと言われます。
訪問リハ等に来てもらっていたりすれば多少なりとも動かす機会は出来ると思いますが、ほとんどの方はデイサービスでの機能訓練以外患側を動かすよいう機会を持たれません。
ですので、デイサービスでは個別機能訓練や集団体操以外の時間でもボーっと座ってTVを眺めているだけではなく、何らかの形で手を動かしてもらいたいと思っています。
ハンドグリップやボールを持っていくと、「え~?また~??(苦笑)」と面倒くさがりながらも取り組まれます。
ハンドグリップ


座ったままで手軽に手指、握力のトレーニングができます。
値段も安価なものが多いので使いやすいアイテムです。
麻痺側の拘縮で指が伸びない方の手に握らせるとグリップの開こうとする力で伸びにくい指を伸ばすトレーニングにもなります。
自宅でも施設でもいつでもテレビ観ながら簡単握力トレーニング!
ダンベル


握って持つだけでも十分トレーニング効果が期待できます。
写真は1kgのものですがプラスチック製のものや500gのもの等種類もいろいろあります。
ペットボトルでも代用できます。中に入れる水などの量を調節すれば重さも調整できます。
柔らかくて持ちやすい高齢者向けダンベル♪
ゴムチューブ


写真のように両手で持って開いたり閉じたりでも上腕や胸筋のトレーニングになります。
足で一方を踏んで固定して、他方を患側の手で持って引っ張ったりしても訓練できます。
短めのもので患側手指に一方を引っかけて健側の手で引っ張る運動でも患側手指に刺激を与えることができ、関節運動にもなります。
高齢者でもお手軽に使ってトレーニングできます♪
ゴムボールやスポンジボール



ハンドグリップと同じような使い方になりますが、手全体で把持せず、四指と親指だけで摘まむように把持してボールをつぶすように力を入れればピンチ力のトレーニングにもなります。
この動きはハンドグリップでは硬すぎて難しいことが多いので柔らかいボールの方が練習しやすいです。
片麻痺の方はもちろんですが、高齢になると母指球筋の筋力低下も顕著に観られ、母指球部の筋肉の盛り上がりがなくなり、拇指を動かしても筋の動きが感じられないような方が多いです。
そういった方にもお勧めのトレーニングアイテムです。
握力訓練の他にも用途いろいろ使い方ブック付き♪
お手玉



お手玉を数個持ってものを掴んで把持し続ける訓練が行えます。
その掴んだお手玉を一個ずつ落としていくという訓練も行っています。
指をうまく使って一つずつ落とすのは意外と難しいです。
これが手指の巧緻性を養う訓練にもなります。
また、お手玉自体が懐かしいという方も多く、女性の利用者様は特に興味を持って取り組まれる方が多いです。
ちなみにお手玉のことを「おじゃみ」とも呼ぶそうです。
私は知りませんでした( ノД`) 昔は小豆等を入れて手作りする方が多かったようです。
この本で認知症の方の世界を理解するとともに機能訓練のアプローチも考えられます!
私のイチオシです!
まとめ
いかがでしたでしょうか?
私が実際に行っている片麻痺利用者様の手指巧緻性を目指す機能訓練をご紹介しました。
オーソドックスなものも多いですが一人の利用者様に30分、40分とマンツーマンで付いて訓練できないので、合間の時間にお一人でもお席で座ったまま出来るものを選んで取り組んでもらってます。
塗り絵等はレクリエーションも兼ねて行えますし、季節に応じた絵に色を付けていってもらえば季節感をより感じてもらえたり、脳の活性化につながると思います。
貼り絵やちぎり絵、絵画等利用者様の好みや能力に応じて提案してあげると良いと思います。
【デイサービス機能訓練Ⅰ-ィ】片麻痺の利用者様への対応① 片麻痺について